やどかりというのは僕の母親が経営していた小さな喫茶店の名前。もちろんあの生物からとった名前で、子供の頃は友達からからかわれるし、とても嫌だった。物心ついてからなぜそんな名前を付けたのか訪ねてみると、母親はこう答えた。
生物のやどかりというのは、貝殻を背負ってるでしょ。あれが彼らのおうちなの。自分の身の丈にあった貝殻を選んでおうちにして、また自分が成長するとそれにあった貝殻を探して取り替えていくの。お店もそれを真似て、身の丈に応じて無理をせずにいろいろなことを選択して営んでいくの。
なんという深イイ話。
それ以来、やどかりという母の喫茶店が大好きになった。